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東京高等裁判所 昭和45年(く)206号 決定

少年 Y・A(昭二五・一一・一五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、附添人弁護士永野貫太郎作成名義の抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用し、これに対して、つぎのとおり判断する。

本件抗告は、原裁判所が昭和四五年七月二四日した、少年法二三条一項、二〇条により頭書保護事件を東京検察庁検察官に送致する旨の決定の取消を求めるものであるところ、右の決定は抗告が許される少年法三二条所定の保護処分の決定に該当しないばかりでなく、少年の実体的権利関係に未だ変動をもたらすものではないから、この決定に対しては抗告はできないものと解すべきである。また右の決定は刑事訴訟法による決定ではないから、これに対して同法四一九条に則り抗告することも許されない。

(なお、一件記録によれば、原決定には所論のような事実誤認、法令解釈適用の誤りや手続上の法令違反の廉は存しない)。

よつて本件抗告の申立は、その手続が規定に違反するので、少年法三三条一項前段、少年審判規則五〇条によりこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 江里口清雄 判事 上野敏 横地正義)

参考

抗告申立書

兇器準備集合等少年Y・A

右少年に関する頭書事件につき、昭和四五年七月二四日東京家庭裁判所は事件を東京地方検察庁検察官に送致する旨の決定をなした。右決定に不服であるから刑事訴訟法第四一九条に基づき抗告の申立をする。

昭和四五年七月二九日

右附添人

弁護士 永野貫太郎

東京高等裁判所御中

申立の趣旨

原決定を取消す

との裁判を求める。

申立の理由

一、原裁判所の決定には重大な法令解釈並びに適用上の誤りがある。

原裁判所赤塔裁判官は検察官送致の被疑事実につき合理的な疑いをいれぬ程度に証明するに足りる証拠がないことを自認したにもかかわらず少年法第二〇条を適用して事件を東京地方検察庁検察官に送致する旨を決定した。右決定は少年法第二〇条の解釈適用につき重大な誤りに基づくものである。少年法第二〇条は憲法三一条及び刑事訴訟法との関係上、少年の人権保護を目的とする少年法の趣旨にもとずき、少年が罪を犯したとの事実につき合理的疑いを入れぬ程度の証明があつたことを前提とするものである。

二、原裁判所の手続には重大な法令違反がある。

本件において少年は被疑事実を否認し、唯一の証拠と見られる二枚の写真についても自分ではない旨明確に否認した、かかる場合、少年法二二条より裁判所は右写真の関連性及び人物の同一性等につき少年法一四条にもとづき証人尋問、鑑定等をなすべきところ、原裁判所赤塔裁判官は少年の弁解を聞くや、右の如き手続を一切なすことなく直ちに事件を検察官に送致する旨の決定をなした。右のような審判手続は、少年法一条の精神をふみにじり少年法二二条を全く無視した重大な法令違反といわねばならない。

三、原裁判所の決定には重大な事実誤認がある。

本件において少年の行為を認定すべき証拠は写真しかなく、しかもその写真が少年の写真であるかについては充分な証拠のないことは原裁判所裁判官も認めるところであつたにもかかわらず、原裁判所は右写真の人物を少年であると認定したものである。右原裁判所の認定は重大な事実誤認にもとづくものである。

以上

なお当附添人は裁判所との面接を希望するものであつてその旨配慮されたい。

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